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追憶

子供の頃から犬が大好きだ。
でも「犬を飼っていた」と言えるのは一度だけだ。
小学校2年か3年の頃だったか、近所の同級生が「子犬が産れたんだけど、要らない?」と言うのだ。
下校途中に立寄って、丸くて小さな子犬を見たら欲しくなった。
早速、両親の許可を得てオスの子犬を貰った。
その日からいつも一緒に遊んだ。
最初だけ室内で飼い、その後は親父が作ってくれた犬小屋で飼った。
餌は専ら残飯で、下痢をした時だけは消化の良いモノを与えた記憶がある。
当時は今と違って大らかな時代で、夜は放し飼いにしていた。
が、どうやら遠出する事無く、専ら家の周囲を哨戒していたみたいだ。
時々、軽い怪我をしていたので、他の犬と喧嘩する事も有ったのだろう。
野犬狩りが来ると家の下に潜り込むだけの賢さも有った。
しかし、朝になれば何処からともなく尻尾を振りながら戻って来た。
そんな生活がずっと続くと思っていたが、小学5年生の秋、唐突に幕を閉じた。

横浜の借家から埼玉の公団住宅に引っ越す事になったのだ。
「団地では犬が飼えないんだよ」
人間の身勝手な事情と云う奴だ。
結局、親父の仕事仲間が引取ったのだが……別れの時、辛うじて泣かなかった。
又、逢えると信じていたから。

暫くして、人を噛む様になったと聞いた。
信じられなかった。
見知らぬ人に向って吠える事はあっても、一度だって人を噛んだ事なんて無かったから。
いつも一緒に居た私が居なくなったので寂しかったのだろうか?
それとも、私に見捨てられたと思い、人間を恨んだのだろうか?
逢いたかった、無性に逢いたかった。
逢って、名前を呼んだり、頭を撫で回したり、抱いてやりたかった。
でも、小学生が一人で行くには遠すぎた。
自分独りでは、どうしようも出来ない状況が存在する事を知った瞬間だった。

その後、程なく保健所で“処分”されたと親父から聞かされた。
仮面を被ったかの如く無表情で聞いたが、夜、自分の部屋で泣いた事を今でも憶えている。

何十年も昔の話なのに、今でも犬の事を思い出す。
若しかしたら、無意識の内に「忘れてはならない事」だと認識しているのかも知れない。
人間の身勝手な事情の犠牲になって生命を絶たれた「友人」だから。
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by photo_artisan | 2007-06-02 00:00 | 記憶
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